せどうの作業部屋

ウクライナ・ロシアを中心に世界情勢関連を翻訳、日常や趣味投稿も。

ロシアのアイデンティティの危険な一面【スレッド翻訳】

【本記事は、自己note記事↓から転載したものです。】

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今回のスレッドは、アザマット・ジュニスバイさんのものです。カザフスタン出身で、米国カリフォルニア、ピッツァー・カレッジで社会学の教授をされているとのことです。

スレッドの原文がこちら↓

やはり日本人にはなじみのない、ロシアとしてのアイデンティティ、その考え方の根底にあるものを説明してくださっているので共有させていただきました。

今回はまた要約というかほぼ全訳……それではどうぞ。
【以下翻訳】



ロシアの人々の、ウクライナ侵攻に対する大きな支持は否定できない。

これは多くの人を混乱させ恐れさせてきた。

なぜこんなにも多くのロシア市民が、クレムリンのぞんざいで奇異な反ウクライナプロパガンダに惑わされてしまうのか?

この問題を解明しようと私は必死だった。取りつかれていたと言っていいい。

私の結論には、間違いなく私自身の中央アジアカザフスタン)人としての立ち位置が多くの情報をもたらしている。

端的に言えば、クレムリンプロパガンダは、プーチンが覇権を取るずっと前からロシア人のアイデンティティの大事な一部であり続けた部分に訴えかけているのだ。

ロシア社会が20世紀の間に極端な大変貌を遂げたのは広く知られている。革命、世界大戦、ソビエト連邦の大頭と崩壊。目の回るような変化と途絶の度合いは誇張しすぎることは無い。

しかしこの騒動の最中でも、ある一つのロシアの価値観は変わらなかったのだ。

幾つもの歴史と政権種別を超えて残る、驚くほど安定・永続している現象がある。

それは、ロシア国民の、周りに良いものをもたらす大国ロシアとして、そして他より優れた文化と道徳をもたらすロシア人としての自認識だ。

深く内面化された、そうあること自体が慈悲深くさえあるという考え方は、長い間ロシア社会に浸透しそれを形作ってきた。

この考え方では、ロシアは無慈悲な植民地支配の罪を犯した古いヨーロッパの大国とは異なり、文化、繁栄、秩序を無私に分け隔てなくもたらすものなのである。

ロシアの『周囲のより地位の低い人々に恩恵を与える兄貴分』であるという視点は、どんな政治的信条だろうとそれを持つロシア人の誰にでも見られる。

この考え方では、ロシアの近隣諸国は永久にロシアに恩義があることになっている。常に関係は対等ではない

贈り物」という言葉が頻繁に使われる。それにはロシア語、文学、音楽、芸術が含まれている。そして科学、現代性そのものまでも。

当然、この世界観ではロシア人は他より立場が上で、ロシアの寛大さを受け取る側にいる人々はそれに感謝することが当たり前だ。

ロシアの中央アジア人に対する見方は、まるで「立ったまま小便をする方法を教えてやったのだ」とでも言うような、臆面もなく悪びれもしない人種差別である。

ウクライナ人に対するロシアの長年の見方はもっと複雑だが、同様に有害で見下すようなものだ。

気味の悪いことにプーチン以下のロシアの政治家によれば、ウクライナカザフスタンに関しては、ロシアからの『贈り物』には、領土の一部や国家そのものすら含まれているのだ。

1991年に主権国家となったウクライナカザフスタンの両方とも、プーチンには『人工的に作られた国家』だと説明されてきた。

この世界観の中心にあるのは、『以前はモスクワの支配下にあった国々が独自の機関を持つことができる』という事実に対する否定だ。

キーウ、アスタナ、またはトビリシがロシアとは異なる道を進もうとする試みは、他の大国に操作された結果だと思っている。

この世界観では、モスクワの支配から解放され自分自身で物事を決めようとするウクライナは精神に異常をきたしており、だまされやすく腐敗したウクライナの指導者たちが、ワシントンやロンドンなどに操られた結果なのだ。

だってそうでなければ、どうしてロシアの『影響下』から逃げたいなどと考えようか?

ロシアの大衆の想像力に及ぼすこの考え方の影響力は、誇張しすぎるなどということは出来ない。大いに宣伝されていた、『侵略するロシアの兵士が、「解放された」ウクライナ人によって花と共に迎えられる』という予測のことを考えてみてほしい。

ロシア国民の、主権国家に対する恐ろしい攻撃に対する支持を理解するためには、ロシアの悪びれもしない大国としての長い歴史と、長年持ち続けた自国と近隣諸国に対する視点を考慮に入れなければならない。

プーチンプロパガンダは、ロシア人が奥底に持つ帝国主義的な考えに訴えかけるからとても有効なのだ。

実際、帝国主義は長い間ロシアの政治と社会の切り札であり続けている。

これはプーチンの戦争ではなく、ロシアの戦争だ。

プーチンのロシアではなく、ロシアのプーチンなのだ。

ロシアが自らを『慈悲深い帝国』だと、以前植民地だった国の主権を『修正が必要な「地政学的大惨事」』だと見なしている限り、誰も安全ではない。

世界は早いうちにこれに気が付くべきだ。

【翻訳以上】


本スレッドは、以前要約したカミルさんのスレッド↓と合わせて読まれると更に理解が深まると思います。よろしければご覧ください。

それではまた。

翻訳者、瀬道

ロシアの核と内戦とその未来【記事翻訳】

【本記事は自己note記事↓より転載したものです。】

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今回の投稿は、インタビュー記事のほぼ全訳です。

・インタビューに答えているのは#1で衝撃的なロシアの実態を語ってくれたカミルさん。 (Kamil Galeev @kamilkazani ) オープンソース・リサーチャー。ツイッターのフォロワーは36万人。

・インタビューを行ったのはカミルさんの北京大学院での同窓である、中国情勢の専門家ジョーダンさん。(Jordan Schneider @jordanschnyc ) シンクタンクRhodium Groupの一員であり、中国関連情報メディアも運営。

ジョーダンさんのポッドキャスト

ChinaTalk Conversations exploring China's tech scene, economy and polit link.chtbl.com  

ジョーダンさんのブログ:

ChinaTalk Weekly analysis of US-China policy and translations of Chines www.chinatalk.media  


翻訳した記事の内容はウクライナ戦争と下記の関連です。

・核戦争の見込みは?
・ロシアエリートの政治とプーチンの行く末
・ロシア国家の安定性
・モスクワの地方への支配

元の記事はこちら。

こちらが瀬道が翻訳、投稿したスレッド。

本インタビューは長いので、概要バージョンも別途投稿しました。
こちら↓

【翻訳内表記】
J:ジェームスさん(質問者)
k:カミルさん 
・宇国:ウクライナ
・露国:ロシア

【以下記事翻訳↓】(見出しは読みやすいよう瀬道が追記しました。)


ロシアと核兵器

J:エスカレーションについて。ロシアの選択肢として『宇国への敗北VS米国への敗北』という見方があるが、これは当てはまると思うか。

K:プーチンからすれば論理的な考え方かもしれない。だからと言って彼が核を使うとは限らないが、使えば間違いなく米国が行動を起こす。

内政対策として見れば、核の使用は宇国への敗北という『(国内の世論対策としては)管理しきれないリスク』を、米国への敗北という『管理しきれるリスク』に変えることになる。

人々が露国を『軍事大国』として見るのは核を持っているからだ。特に開戦後は軍のお粗末さが露呈したので、核の保有だけが露国を『大国』たらしめている傾向がある。

だが世界の分析者や政治家は、露国の軍の頼りなさをあまり重要視していないようだ。核を持っている限りは露国は強力だと信じている。

しかし実態はこうだ。

1990年代に、ソビエト時代の機械工業は滅びている。生産だけでなく、数値管理や鉄鋼切削、ベアリング製造……全ての関連技術もだ。生き残ったものも2000年代に消えた。

なぜか?

90年代の終わりまでに、新しい設備を買える機械生産者は部品の生産を輸入に切り替えてしまったのだ。プーチンが大統領になる前に既に、工場は生産をアウトソースし始めていた。

ロシアの2019年度の商品群別輸入金額ランキング(出典:Statista
1位:車両とその部品、2位:一般工業機器と用品、3位:電子工業機器と関連製品、
4位:医療用品と薬剤、5位:電話と民間用電子機器、6位:工業専用機器、
7位:金属加工用品、8位:野菜と果物

プーチンにはこれを変えるチャンスがあったはずだが、石油の利益は軍備に回されただけ。機械関連部品の生産を再開する直接の対策はなされなかった。

結果、軍事工場はその金を『先進国』から部品を買うことに利用した。中国ではなく、である。

2010年代、ロシアはジョージアで戦争を起こした際にその状況の危うさに気づきはしたが、生産チェーン全体を作り直すことは出来なかった。今露国内にある生産工場はすべて組み立てているだけ。部品は100%海外に頼っている。

つまり、露国の核武装状態は欧米の親切心に支えられているのだ。

核も、核輸送システムも、陸上兵器も、先進国からのハード&ソフトウェアの輸入無しでは拡大どころか維持すらできない。 必要な用具を提供しない限りは、プーチンは核で攻撃などできないのだ。

先進国の対ロシア方針における過ち


J:
もしバイデン大統領と話す機会があったとしたら何を伝える?

k:米国戦略の問題は、宇国戦に関連した決断ではなく、より大きな視野を持っていないこと。露国は敗戦の可能性が高いわけだが、次に何が起こる?

多くの国は現政権以外の選択肢が見えていない。戦後もプーチンとその取り巻きがモスクワを支配すると思っている。

その他はリベラルな政治家が政権を取り、要するに露国組織が組み立て直されるのを望んでいる。

(動画はロシアで刑務所に捉えられている現政権反対派のアレクセイ・ナワリヌイ氏を「希望の光」と評し、彼とロシア民主化への支援を訴えるヒラリー・クリントン氏)

一方で私は、現状の解決策は多くが唱える段階的縮小や政権交代などではなく、

露国の 『非植民地化』 だと考える。

露国は連邦国家というよりは、

『非植民地化を行っていない最後の欧州植民地化国家』

なのだ。今の露国は、ポルトガル海上帝国が生き残りリスボンからブラジルを支配しているような状態なのである。

ロシア帝国の非植民地化と解体を目指すべきだ。

ロシアの地域区分(出典:Wikipedia

そのためには地域の代表や利権者、活動家たちと話をする必要があるが……貴方も良く目撃するであろう問題は、外交政策者たちは最もリベラルな反対派意外とは真面目な話をしようとしない点。彼らは帝国をまとまったままにしておきたいのだろうが、無視をせずに別の考え方にも耳を傾けるべきだ。

私はタタール人だ。自分を露国人とは思っていない。私の同族が、そして他の人々が何百年も露国の税金を払わされ、帝国主義戦争で防弾土嚢として使われていることは、私にとっては大きな問題なのだ。

J:他に話したい相手は?ナワリヌイ?イゴール・セチン?

k:見ればわかることだが、露国は重大な危機へと向かっている。しかし危機は常に危険だが同時にチャンスをもたらす。それはジュビリーユダヤ教、50年に一度の祝賀、古典では奴隷が解放され負債は帳消しに)に例えられるだろう。債権者には都合が悪いが負債者には喜ばしい。現政権に権力を借りていた立場であれば、これはその貸しを踏みたおして自由になるチャンスだ。

例えば、ナザルバエフ(カザフスタンの元首相)は共産党のもとカザフスタンを統治する政党員だった。つまりモスクワに借りがあった。そしてモスクワが大きな政治問題に飲み込まれた時、彼は借りを無効にして自由の身となった。

つまり、今日のエリートにとって現政権とつながりを持つことは実用的ではない。それはその価値が急退している資産に、評判や名前や資源を投資するのと同じようなものだ。素早くしかも予告なしにその価値を失うであろう露国現政権の構成員に、自分自身を売り込んでも意味はない。

代わりにするべきことは、混乱に備えることだ。

それはおそらく一年以内に訪れる。それが起こった時のための個々の対策を練るべきだ。自分と、家族と、もしかしたら役職と地域とに対して。多くの人は実際に対策を立てているが、もし混乱とその際の対策について考えないのであればそれは愚かだ。

プーチンと、それ以下の各階級との関係性


J:露国のエリート層と、彼らとプーチンとの関係、意思決定や立案組織を人々はどのようにとらえれば?

K:一つの問題は、メディアや学術的分析者さえ、プーチンに注目しすぎることだ。

確かに露国は過度に権力を集約させた国だ。しかしプーチンを露国と、またはエリートをプーチンと同義と考えては大事なことを見失う

それは、エリートたちには自分の意思があり、自意識過剰で、自己の利益に忠実だということ。彼らはプーチンの利益ではなく、自身のそれを追求し最大化しようとするのだ。

例えば、多くの露愛国者は戦争に賛成していて、国がいったいどこに予算を費やしているのかについて不満を持っている。もちろん国は戦争に資金を投入しているが、はたから見れば単なる汚職で、全く無駄なプロジェクトもたくさんあるのだ。 モスクワの美化(毎年、時には年に2回の歩道工事)、高額なインフラ設備、高層タワー、(戦争ではなく)イルミネーションのためのドローン、ロボット犬の購入など……

これは戦争を推し進める国には意味のない投資だ。しかし中間レベルの高官の身になってみれば完璧に理にかなった行動なのである。

自分の所属する組織が大きな危機に瀕していると感じた時、選択肢は2つ。

一つは盗むのを止めて組織の存続に全てを投資すること。

二つ目は出来るだけ多く長く盗み続けることだ。

明らかに、露国の多くの支配者層は後者を選んでいる。

(2018年度の『誠実性』度数。低ければ低いほど腐敗しているとされる。
出典:By SSYoung - Own work [1], CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=78767460

J:それはこの先の露国の意思決定面でどのように影響する?

K:露国の官僚たちは、この戦争に対してそれぞれ非常に多岐にわたる戦略を選んでいる。

プーチンに関してひとつ興味深いのは、彼は不人気な決断に関してはそれを部下に委任する点だ。

よい例がコロナによるロックダウンだ。これは露国内では非常に不人気だった。だからプーチンは自分でそれを宣言せずに地方自治に任せた。「必要と思うなら宣言しろ」と。 プーチンは自分で不人気な決断を下したくないから。

動員も同じだ。彼は何となくそれを宣言はしたが、具体的なタスクは地方に委任した

それぞれの地方責任者たちは、この件に関して様々な戦略で対処している。

まず、幾つかの地方は実直に何か月も動員を続けている。人を集め、義勇兵部隊を編成し、ウクライナにそれを送る。チェチェンのカディロフがよく知られている例だ。

しかし、簡単に言えば「動員をしているフリ」をしている地方統治者も多くいるのだ。共通点は、彼らが50歳以下であること。つまりまだ将来のキャリアに希望を持っている。彼らは(クレムリンの)決断を受け入れ異議は唱えないが、いろいろと理由をつけて実行には移さないのである。

また、戦争を意図的に妨害しようとしていると思われるケースもある。

その筆頭がモスクワの指導者セルギー・ソビヤニンだ。彼は新しいロックダウンを施行しようとした。

コロナの統計を見ると、隣接していない地域のコロナの件数が上がりロックダウン対策数が上がったケースがいくつもある。恐らく、露国のエリートの一部はロックダウンを施行することで動員を妨害しようとしたのだろう。結局はうまくいかなかったが。

また別のグループは、明らかに内戦の準備をしている

支配者層の意思決定権を持つものたちの一部が、ウクライナでの勝利のためにリソースを割こうとしていないのは露国内では明白だ。彼らはその代わりに、混乱に備えているのだ。

昨年までのプーチン政権の最も顕著な特徴は、モスクワへの極端な権力の集中だ。 プーチン以前は、警察と捜査官はそれぞれの地方の共産リーダーに従っていた。KGBですらその影響下にあった。民間と軍は明確には分かれておらず、それは90年代まで続いた。プーチンが権力を持つまでだ。

プーチンによる権力集約の大きな理由は、地方権力者たちから銃を奪うことだった。(ロシア版『刀狩り』) 彼の政権掌握後、地方権力者からは警察、FSB、捜査官、国防軍等への影響力が奪われた。今年、プーチンは最後の地方統治者の個人ボディーガードを(自分の支配下にある)国防軍にすり替えている。

しかし今年に入って、この状況は完全なUターンを果たした。

プーチン世論に非難の的にされるのを恐れて、軍や議会の動員や勧誘を、国ではなく地方に任せたからだ。

戦争が始まるまでは、武装兵力はすべて国家に所属しモスクワの管理下にあった。今は違う。

現在、露国内にはいわゆる『民間軍事会社』(必ずしも民間ではないが)が存在する。これらは書類上は存在しないし、法や規律で規制されてもいない。そして宇国での戦いの大部分が、彼らに任されている

例えばワグネル傭兵部隊。これは露国の法律上は存在しないことになっている。しかし現実には巨大な組織だ。歩兵部隊、防空隊、爆撃機まで……具体的な規模を予測するのは難しいが、宇国での航空戦の多くはワグネルが担っているとみられている。ワグネルが有名なだけで、他にも似たようなグループはたくさんある。

もっと詳しく言えば、プーチンは地方治世者に・その地域で義勇兵隊を編成し・武装させ・自費で装備を揃え・ウクライナに送れ、と指令を出したのだ。

その指令に対する対応は一様ではなかった。

まず、地方によっては十分な資金がなかった。例えばチュヴァシ共和国は兵士を集めたはいいものの、武器を準備することも給料を支払うこともできなかった。

幾つかの地域はきちんと部隊を編成し宇国へ送っている。チェチェンが一番の例だ。

しかしまた多くの地域は(特定はしないが)・部隊を編成し・武装させ・装備を揃え、そしてこれをどこにも送らなかったのだ。今でも地元に防衛訓練兵として駐留中だ。

これらは少数民族の治める地域ではない。民族的にはロシア系が多数を占める地域だ。 つまり、彼らは混乱に備えているのだ。露国が混乱に飲み込まれた場合を考えれば、地元に武装兵力を持っているに越したことは無い。

ロシア一般市民にとっての『特別軍事作戦』

 J:露国の人々についてと、動員が生活にもたらす影響、世論、そして露国の未来について、一般人の視点から見た場合はどう見える?

K:動員発令直後、数十万人が露国から隣接国へ、多くはカザフスタンジョージアへと逃れた。

彼らを反プーチン反帝国主義反戦派と認識する欧米人もいるが、それは違う。難民の中には強い帝国主義的、プーチニスト的視点を持つものもいる。例えばカザフスタンに逃げてきて、カザフスタンは露国に加わるべきだと説く露人を見るのも普通だ。ドンバスとクリミアは露国だと考える人も多数だ。

ではなぜ逃げたのか?

自分は戦いで死にたくはないからだ。動員に応じるか逃げるかは、プーチンクレムリンの政策を受け入れているかどうかとは関係がない。それよりも、自分の命に対してどれだけ楽観的か、もっと言えば価値を置いているかだ。プーチンの方針を支持する人の多くは自分の命に価値を置いている。彼らは社会的、経済的に順調で、さらに良い生活を夢見ている。死にたくないから逃げたのだ。

彼の政策に心から賛同していない人はどうかといえば、自分の未来をあきらめていることが多い。地方ではこれは非常に一般的だ。

動員への反応は、今の社会的経済的状況とその将来の展望が関わっているのだ。

この戦争は、ある意味では非常に戦争らしくない。

第一次、第二次世界大戦と、それ以前の皇帝の戦争も、兵士の多くは全く報酬を得ていないか、得たとしてもほんの僅かだった。将校たちにとっては儲けになっただろうが兵士たちは違った。

この戦争では、露国の歴史で初めて一般兵が報酬を得ている。

露国の小さな村では月3万ルーブルを稼げるが、前線に出れば簡単に月20~30万稼げるのだ。モスクワからすれば大した金額ではないが、村からすればそれは大金だ。 また、死亡に対する補償もある。その金額は地方からすれば法外だ。家族が死んだとき、地方の人々の多くは7百万ルーブル(約10万ドル相当)を支払われた。これは地方にすれば大金で、小さい町では不動産市場か変化したり新しい事業が起こったりしている。

例えばエストニアとの国境にある貧しいPskovの村ではVDV(露国空軍)が駐留しているが、その村の女性たちが次々に空軍兵と結婚して数か月で複数の死亡補償を得た例があったりする。 これは貧困と、多くの兵士が素早く亡くなっていくという要因が重なって生まれた状況だ。

この辺りを欧米は理解していないのだろう。貧しい露国の地方にとっては、これは決定的な経済的誘因となるのだ。このために現実に多くが戦争に賛同しているのだ。

しかしこれもある意味ポンジスキーム(詐欺の手法)のようなものだ。露政府は、動員への賛同を得るために最初の一万数千人の死亡者の家族には気前よく補償を払ってきた。しかしこれを際限なく続けることは不可能だ。

今家族が宇国に送られることに意欲的な人たちは、騙されることになると思う。彼らが希望する補償は支払われないだろう。


J:動員は社会の安定にどう影響するか?

K:9月迄は動員を断ることが出来た。しかし今は強制だ。私の考えでは、これは社会を逆に安定化することになる

なぜならこれは『恐怖』を与えているからだ。それをどんな手を使ってでも避けたい市民は従順になる。数か月前ならデモに参加すれば1か月刑務所に入れられただけだ(最初の二回までは)。今では動員されてしまう恐れがあるのだ。

また、強制動員は(露国にとって)国内の民族的バランスを変えて『正す』のに役立つ可能性がある

動員は地域によって非常に非均一的に行われている。モスクワでは比較的少数を、しかし北極圏の村からはほとんど全ての兵役可能な男性を動員しているのだ。 これはある植民地の資源を戦争のために他の植民地で利用するのと同時に、民族的均一性を『正す』ための手法となりうる。(=民族粛清)

ロシアの敗戦後シナリオ

J:では中期的な展望はどうか?

K:この戦争が始まった時、私の頭には露国における三つのシナリオが浮かんだ。

一つはプーチンが権力を保持するシナリオ。欧米的には北朝鮮』ルートと呼ぶのがわかりやすいだろう。

しかし私の中では『ドンバス』ルートという方がふさわしい。ドンバスで用意され使用された国政術と立案方法は、今露国本土にも適用されつつある。軍国主義化、経済の国有化、男性人口を防弾土嚢として使い、法治制度の残りを抹消していく。プーチンが権力を保持し続ける限りは、これが露国の行く末だ。技術的には可能だろう。このこと単体がプーチンの権力を妨害することにはならない。

二つ目のシナリオは、『帝国再起動』ルートだ。

プーチン配下の支配者層の一部が、モスクワのリベラル反対勢力(例えばナワリヌイなど)に権力を与えて事態の収拾を図ろうとする。これも可能性があり状況は段階的に縮小しうる。もしかしたら全ての制裁を解き、そうでなくても緩和はされるかもしれない。

だが3月、4月に起こったことの後で、このシナリオは可能性が低くなってきている。可能性がないとは言い切れないが、権力を保持できる適役がいるとは思えない。

3つ目のシナリオは、これが一番有力になってきているが、『国の離別』ルートだ。

つまり露国がより小さい国に分かれること。これは一度には完了せずに複数の段階に分かれて起こるだろう。最初は名目だけ、それから公式に。現時点では、国家が様々な理由で様々な地域の支配を失う可能性は非常に高い

その一つ目の理由は、権力は常に神話的だということだ。軍の敗北は何であれ、多かれ少なかれ帝国神話を傷つける。しかしその程度も様々だ。

米国への敗北に対する恥は、(宇軍に対する敗北よりは)より少なく管理しやすい。例えば対英国のクリミア戦争には耐えられたが、20世紀初頭の日本への敗北は耐えられるものではなかった

米国に負けたとすれば、それはプーチンにとっては名誉の敗北となりうる。強大な敵に負けた、再度体制を整えて挑戦しよう……と。しかし宇国への敗戦は全く管理不可能だ。 露国の政治体制と帝国主義はそれを生き残らないだろう。モスクワの威光と魅惑は失われる。清国が英国と仏国に負けても体制に傷を負わず、日本に負けて管理不能になったのと同じだ。

もし露国が宇国に負ければ、それは組織崩壊の引き金となるだろう。

また別の要因は、モスクワの公的官僚組織が暴力だけに支えられている点だ。

今の露国には民間の軍隊が多く存在する。そして、これはある意味詩的とすら言えるが、(露国が)煽ってきた戦争は対外政策ではなく、内政政策だったのである。恐らくプーチン宇国を攻める決断を下した時、露国内の混乱を海外に輸出してしまって、国内の情勢を治めたかったのだろう。 外に輸出した混乱は、今内側へ輸入されつつある。

宇国に出兵した露人が帰国した時、モスクワの権力組織が彼らに対する権力を維持していればそれは大きな問題になる。多数の私有軍が存在する状態ではこれは管理しきれない……特に敗北を喫したとなれば。

声なき者たちの声

J:過去6か月、ツイッターで貴方のスレッドを多くの人が読み35万人のフォロワーがいるわけだが、米国のSNSで宇国戦、露国、その歴史について語った経験をどう思っている?

K:私の視点を世界のより広い読者に伝えることは非常に重要だと思っている。

露国に関する一般の論説は理想的ではない。

なぜならそれは非常に少数、つまりモスクワの権威と、知り合いや友人、コネに頼っている欧米のメディアに支配されているからだ。 その地域を代表する人間がいないという理由だけで、メディアや政治や社会の人々の話題が取り上げられていない。この狂った不平等なやり方は、多すぎるほどの欧米メディアで採用されている。

例えば、私がある事柄に関して……例えばナワリヌイの活動は露国の帝国主義と方針に沿って行われていて、もし彼らが権力を持ったとしたら少数派に対して撲滅運動を始めかねない……と述べた時、多くの米国人はとても驚いて、興味深い、聞いたことがないと言っていた。

これは珍しいことではない。多くの少数派、特にコーカサス地方では、人々は(ナワリヌイ一派が)権力を持つことを非常に不安に思っている。欧米でだれもこの話を聞いたことがないのは、これらの人々の言葉が代弁されていないからだ。

J:特に宇国情勢に関して、貴方の活動を支えるために人々にお願いしたいことは?

K:近日中に、2つの活動を開始する。

一つは自分のリサーチ会社を立ち上げること。ブレークスルーとなるであろう最初の論文を発表する予定だが、まだ詳しくは話せない。

もう一つは露国の少数派が不公平に動員されていることに関してだ。

多くは脱出を試みている。例えばモンゴル系の人々はモンゴルに逃げられる。受け入れてもらえるからだ。しかし他の多くの少数派にはあまり支持体制が存在しない

ウラル地方やヴォルガ地方の人々……タタール、ヴァシュキアス、チュヴァシュ、ノガイスなどのトルコ系の人々と、マリやウドゥムルテの人々を含む……は貧しく農村地域出身だ。彼らは特に今回の動員で標的にされている。

彼らを別の場所に移動させる活動を準備している。この活動を支援してくれる人がいるのなら、それは非常にありがたいことだ。徴兵可能な年齢の男性を主に支援する。出来るだけ多くの人を強制的に戦争に送られる運命から救うことが出来たら、それは素晴らしいことだと思う。

【記事要約(ほぼ全訳)以上】

ロシアの頭の中:侵攻の背景と私たちが取るべき姿勢【スレッド要約】

【自己note記事より転載。原文↓】

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こちらの要約は、ロシアによるウクライナ侵攻後まもなく私がツイッターで見つけてかなりの衝撃を受けたスレッドになります。

当時私は全くあり得ないと思っていた侵攻が現実のものとなり、かなり混乱していました。「なぜ現代でこんなバカなことが起こるんだ?」と。しかしこのスレッドを読んだおかげで、ロシアのロジックのかなりの部分が明確になり、とてもスッキリしたのを覚えています。

注:ロジックの理解 ≠ 侵攻に賛同

読んだ後は、逆にロシアは本当に危険だと分ったのでその後ウクライナを安心して応援できるようになりました。

ロシアの侵攻理由を理解できずにいたり、双方の主張の食い違いに混乱している方は、是非ご一読を。

こちらが著者カミル氏による元スレッドです。英語がわかる方はぜひ原文でどうぞ。

以下、ツイッターに上げていた私の要約の再掲です。

・全文翻訳ではなく、瀬道なりに要点をまとめたバージョンです。
・誤字修正済み、一部表現を変更(内容には変更なし)
・【】内は瀬道の補足説明です。
・見出しは瀬道が追加しました。


後に引けないプーチン


ロシアに交渉の余地を与えるために『出口』を用意してやる必要があるという意見も出ているが、ロシアが妥協する可能性は無い。

プーチンはもう引くことは出来ない。交渉に、クレムリンでも見下されている文化大臣ごときを送ってることからも明らかだ。

ロシアという国は、勝機があるはずの小さな戦争に負けるごとに崩壊してきた。モスクワ公国はクリミア進行に失敗し崩壊、ロシア帝国は日本に負けて崩壊、ソ連アフガニスタン進行に失敗して崩壊。ロシアは貧困にも不景気にも圧政にも耐えられるが、小さな戦争における敗北だけには耐えられない。

ソビエト軍の戦車の残骸の上で遊ぶ少年たち
アフガニスタン、カブール南部のカンダハール郊外、2015年
出典:https://www.voanews.com/a/syria-not-another-afghanistan-for-russia-veterans-say/3009279.html

皇帝は嫌われていても統治出来るが、尊敬無しには不可能。そして小さな戦争における敗戦は、何より尊敬を失うのだ。

プーチンはすぐにウクライナを落とせると思っていた。FSB【ロシア工作・諜報部】のN5【部門】は、プーチンの聞きたいことしか言わせてもらえなかったからだ。

彼はもう後戻りは出来ない。

上手くいかないことを知っている部下も居るのに、発言すら許されない。【これはロシア政権の構造の根本的な欠点。】ソースによると、プーチンは未だに【2月末時点】良い報告しか受けていない可能性があるという。

【動画は開戦直後の会議と思われるもの。外国情報局長セルゲイ・ナリシュキンは明らかに言葉を濁して欧州との交渉を提言するが、プーチンに発言を遮られウクライナ東部の占領地の独立を認めるか否かをはっきり言うように責められる。】

 

プーチンが国民に『勝利』として発表出来るよう何かしら譲歩してやるべきという意見もあるが、上手くはいかないだろう。

第一に、人々はそこまでバカでは無い。

第二に、【Zのマークで象徴されるプーチンの】好戦的愛国心プロパガンダは成功している。それは、生活レベルの極端な低下がロシア中で見られるようになるまでは成長を続ける。プーチンは自分が始めたZのせいで、Zを推し進めるしか無いのだ

第三に、そしてこれが最も重要だが、ウクライナへの侵攻は事故では無い

これは『勝利の憑依』と呼ばれる、プーチニストイデオロジーの極致なのだ。『勝利』とは、WWⅡにおける勝利のことである。

ロシアのプロパガンダと『ナチス』の理論


『不滅の連隊』(Бессмертный полкと呼ばれるものがある。ロシアが毎年開催するパレードだ。人々は旗やシンボルやWWⅡの殉職者の写真を持って行進する。

『不滅の連隊』<<Бессмертный полк>> 出典:https://76.ru/text/gorod/2019/05/07/66080809/

罪の無い心温まる光景に見えるかもしれないが、これは強力なメッセージを国民の意識に根付かせている。

第1のメッセージは『ロシアが邪悪なナチスから世界を救ったのだ』というもの。つまり、世界は永遠にロシアに対して借りがあることになっている。

第2のメッセージは、「ロシアは誰よりも強く、WWⅡの成功を繰り返すことが出来るというものだ。

「何度だって繰り返せる!」"можем поворить!"
(車のステッカーデザイン)

プーチニストイデオロジーは、『闇の勢力ナチズム VS 光の勢力ロシア』という二元論で成り立っている。

『今』、ロシアに敵対するものは全てナチスと認識されるのだ。

つまり、【彼らの考え方によると】ウクライナ人【もしくはあらゆる他の国民】としての自覚があること自体がナチスである証拠となり、そうでなければロシア人になるはずなのである。

これが、海外では良く理解されていない逆説的なひねりである。

ロシアの単一性を脅かすあらゆる少数派は、

1. 偽物
2. 反逆者
3. ナチス

のどれかだと断言される。ロシアは光の勢力であり、そこに属さないものは全てナチスなのだ。

2020年にプーチンが、ロシア語こそが『国を構成する民族性』であるという項目を68条に加えた時、国内で少数派の反発が起こった。

彼らは即座にナチスだと告発されている。

WWⅡのカルトである『勝利による憑依』(победобесие) は、ロシアの単一民族主義を推し進める根拠として使われているのだ。

ロシアは無限に拡大する権利があり、それに反対する勢力は全てナチスなのである。

プーチニストが見る世界では、戦争は楽しいゲームだ。自分たちはナチスを倒したのだから、誰でも倒すことが出来る。自分たちは誰より優れている。


現代ロシアの戦争挑発の狂気は、信じられないレベルだ。それは古き良きWWⅡの記憶として表現されているが、実際はこれは次の戦争への準備なのだ。

このキャンペーンの暗い一面は、子供達の関与である。『勝利による憑依』(победобесие)で検索すれば、戦争挑発のプロパガンダのために子供達を利用した画像が沢山出て来る。

『勝利による憑依』"победобесие" をテーマにしたカレンダー
出典:https://www.exler.ru/blog/pobedobesiye-na-marshe.htm

西洋人には、このプーチニズムの屍姦的で軍国主義的なアジェンダはなかなか理解出来されないのだ。

「自分たちはナチスに対抗する光の勢力なのだから、抗うものは全てナチスである。」

それが、海外の分析者が読み解けていない今回の侵攻の背景だ。

プーチンは、20年間に渡って、単一民族主義と国土拡大を正当化するためにこれらの戦争挑発とWWⅡカルトを利用してきた。

Zキャンペーンは常識の逸脱ではなく、プーチニズムのエッセンスなのだ。

歴史が示す警告


紛争の段階的縮小を提案する声もあるが、そんなことをすればプーチンに体制を立て直す機会を与えるだけだ。今こそが、プーチンを叩くチャンスなのだ。彼の過ちを逆手に取って今彼をやっつけなければ、プーチンは中国と手を組む。次の戦争はより悲惨なものになる。

誠意をもって語られる段階的縮小の提案は、非常に短絡的な考えだ。長期的な影響を無視している。

①脅かしておいて②息の根を止めない、という流れは、政府の革新を生む。

ロシアがより強くなる可能性を、爆発的に増やしてしまう。今正に必死なのだから余計に、だ。

段階的縮小というのは、プーチンを出来るだけ脅かさずに、可能な限りの希望を叶え、それ以上を望まないのを期待するという意味だ。

それが、1938年にヒトラーチェンバレンと交渉したやり方である。

ネヴィル・チェンバレン(右)、ミュンヘン会談において
ベニート・ムッソリーニ(左)とアドルフ・ヒトラー(中左)とともに 出典:CC-BY-SA 3.0

ヒトラーがズデーテンラントを要求し、西欧は戦争の危機に瀕した。この時ヒトラーは段階的縮小を望んだ【ミュンヘン協定】。

準備が出来ていなかったからだ。

もしここで事が大きくなっていれば、ヒトラーは負けてかもしれない。

チェンバレンは国民思いの分別のある人間だった。段階的縮小に応じて、ヒトラーに譲歩した。いっときの平和を得たが、これがドイツでのヒトラーの立場を強くし、彼に兵器を作る時間を与えてしまったのである。

なぜヒトラーを持ち出したのかと言えば、以下の通り二人の作戦が似ているからだ。

1. 『危機』を意図的に作り出す
2. 譲歩を得て退避
3. 国内での立場を強化し、強くなる
4. 規模を大きくして1から繰り返す

話はそこで終わらない。以下はプーチンが戦争を起こした国と人口を年代順に並べたものだ。

1. チェチェン   1999年 - 1,000,000人
2. ジョージア   2009年 - 4,000,000人
3. シリア          2015年 - 17,000,000人
4. ウクライナ   2022年 - 44,000,000人

プーチンは素早く規模を広げている。毎回、より大きな獲物を求めて。

『鳩』になる危険性


ここでゲーム理論(=囚人のジレンマ)を考えてみよう。

ゲーム理論の例 (出典:http://nabenavi.net/noncooperative_vs_cooperative/

ゲーム理論では、

・相手に協力する(『鳩』)
・裏切る(=協力しない、『鷹』)

のどちらを選ぶかで自分の得られる利益が変わってくる。

ここでもし、相手が確実に『鳩』だと分かっている場合であれば、『鷹』になる事で自分は有利となる。

プトラー【プーチン×ヒトラー】の戦略は、相手が『鳩』であるという前提の上で成り立っている。


相手が『鳩』であると分かっているのであれば、『鷹』を演じる事で自己の利益を最大化できる。紛争を引き起こし、相手は『鳩』になり、自分は最大の利益を得る。そして規模を拡大していく。何度も何度も。

言い換えれば、プトラーの戦略はゲームセオリーで考えれば非常に論理的なのだ。相手が臆病者であるという前提のもとで、利益を最大化する手法なのである。もしこちらのアルゴリズムが「何があっても『鳩』でいる」であれば、「何があっても『鷹』でいる」事がハックだ。

ここから言えることは、『予測可能な振る舞い』をすることは危険だということだ。こちらのアルゴリズムがバレてしまえば、プトラーはそれをハックしてリスクを取ろうとする。

「相手が『鷹』だからといって、こちらも『鷹』になるのは危険だ。何があろうと『鳩』でいるべきだ」と言う考えは通用しない

『鳩』である事が安全なのは、相手がこちらのアルゴリズムをハックしようとしていない時だけ。そうでなければ危険でしかない。

逆にこちらが予測不可能な存在であればあるほど、あちらはハックが難しくなる。相手にとってこちらが激しく抵抗し反撃する可能性が20%でもあれば、相手が『鷹』を選ぶ可能性は大幅に小さくなる。

段階的縮小がバカな考えであるのは、それがこちらを『鳩』であることを明確にしてしまうからだ

それ以前に『鷹』の要素を見せていたとしても、それを塗り替えてしまう。つまりその後あちらはさらに凶暴な『鷹』になって戻ってくるのだ。

WWⅡは、そうやって始まった。連合国は『鳩』を演じ、遠い国での出来事に首を突っ込む必要は無いと、ひとときの平和の為に妥協した。

連合国が倫理的で責任感のある振る舞いをした結果、ヒトラーは相手を『鳩』だと認識し、自らの利益を最大化しようとした。そして連合国がある時点で退くのをやめた時、彼はとても驚いたのだ。

WWⅢも、同じように始まるだろう。

【要約以上】