せどうの作業部屋

ウクライナ・ロシアを中心に世界情勢関連を翻訳、日常や趣味投稿も。

「ロシアの無い世界など、誰が必要だと思うか?」プロパガンディストによる若者たちへの演説【英語字幕翻訳】

【本記事は、自己note記事↓の転載です。】

note.com

 

今回の翻訳は動画です。ロシアのプロパガンディストが10代と思われる子供たちに向けて行ったスピーチになります。

ロシアがどのような理論を使って国民を扇動しているかを垣間見ることが出来るのではないかと思います。

ロシア語を英語に翻訳してくれているのは、『Rossian Media Monitor』(ロシアメディア監視)と称してツイッターYouTubeで字幕付き動画を公開してくれているジュリア・デイビスさん。

この動画に関する投稿がこちら↓

YouTube動画がこちら↓(早送りで見たい時など便利)

このスピーチを行っているのは、恐らくロシアで最もメディアの露出が多いプロパガンディストであるウラジーミル・ソロビエフ(Vladimir Solovyov)

経済制裁でイタリアの別荘を差し押さえられたらしく、かなり頭にきているようです。)
(しゃべっているときにたまに突然舞台演技みたいのが入るので、私はいつも見るに堪えない……)

とても長い文章になりますが、ロシアという国がどんな理論でウクライナ侵攻を正当化しているのかを是非ご覧ください。(私が既に上げた他の投降ともつながる部分が多いと思います)

因みに動画も、言葉は分からなくてもどんな口調で、どれだけの熱意をもって語られているのかを是非聞いておいて欲しいと思っています。

【以下字幕翻訳】
※()内は翻訳上の補足で、【】内は背景補足(時にツッコミ)です。


話をしよう。

何を持って我々は確実に勝てるなどと決めつけるのか?
なぜ我々は、正義(ロシア)は悪に必ず勝つと決めつけているのか?

多数の企業家たちを見てみろ。
彼らは嬉々としてロシア国籍を放棄し、
ロシア人であることを恥としている。
一体何人の人間が海外に移住した?
「貴方は分かっていない。これはとてもひどいことだ。
国が隣国と戦争をしている。
私たちはそれを受け入れられない」と言って。

彼らには、『母国』という概念が無い。
勝つためには、まず己に打ち勝たなければならないのだ。

頻繁に、人々は考えもせずに英雄的な行動に出る。
感情やプロフェッショナリズムをもとにして。
彼は多くの場合、(その後に)最も高位の勲章を得ることを知らない。
彼は困難な仕事をこなしているのだ。

だが何人かは違う方法を取る。
これは彼らには関係のないことだと考え、
ヴェルフニー・ラース(ジョージアとの国境)に群がり、
ロシアから逃げ出そうとする。(動員を機に国外脱出した人々)
万が一にでも、何か起こった時のために。
彼らは恥を感じないし、我々も彼らに何も言わない。

モルゲンシュテルン(ロシアのラッパー)はロシアでとても人気があった。
あのタトゥーのある〇〇ったれは今どこだ?(侵攻初期に海外移住)
皆、(マキシム・)ガーキン(ロシアのコメディアン)と楽しい時間を過ごしていた。
彼は今どこだ?(侵攻初期に海外移住)
母国に汚物をまき散らしている。
一体何が起こったというんだ?

いつこのエスカレーションは始まったのだろう?
8年間に渡って、NATO各国は彼ら(ウクライナ)に武器を送り続け準備をさせてきた。【嘘】
そして30万人以上の人を接触線上に送ってきた。
【嘘。NATOは各国からの軍事支援のみで軍隊をウクライナに送ってはいない】
彼らは血の匂いも味も知っている。

プーチンは国民が見下すウクライナ『ごとき』に負けた場合、政権を奪われるのが確実。だから国民にはNATOや米国の関与を必死に強調している】

ロソフォビア(ロシア嫌悪)は留まることを知らない。
あらゆるロシア人が嫌悪の対象だ。
まるで自分自身の兄弟を嫌うときにように。
カインがアベルを嫌ったように。(旧約聖書、アダムとイブの子。カインはアベルを妬み殺害)
聖書で語られる憎しみが育ってしまった。
我々の兄弟のようなウクライナの人々の中で。

ウクライナ人を『野生児』だなどと見下して何百年も差別してきたのはロシアの方。古い文献からもその様子は伺える。】
【そしてロシア嫌悪が膨れ上がったのはロシアが今年攻め込んでから。両言語しゃべれる人はロシア語をしゃべらなくなった】

もし我々が(2月)24日に介入しなければ、
数百、数千の犠牲者が出たはずだ。
【嘘。ロシアが攻め込まなければ何も起こらなかった】
そこにはまだくすぶる瓦礫ができ、
全ては遺体で埋め尽くされていただろう。

我々は既にウクライナを打ち負かした。
ウクライナの軍事企業複合体は
最初の6~8週間で消え去っている。
今となっては長い間、私たちはウクライナと戦っていない。
今あの場所に居るのはNATOだ。【嘘】

やつらは彼らに非常に多くの武器を届けている。【嘘】
その数は恐らく、どのNATO加盟国が持つよりも多いだろう。【嘘。ウクライナは開戦後に多くの支援を受け取ったがそれでもそこまで多くは無い】
米国を除いてだが。

彼らは全てにおいて満たされている。
そして我々は孤独だ。
仲間は少ない。
我々1億5千万人しかいない。

NATOは我々と敵対している。【嘘。NATOは現時点で直接交戦をしたいとは思っていない。むしろ必死に避けている】
NATOの経済圏もそうだ。
それは世界経済の50%だ。

我々は、一体何を持っていると言うんだ?

そうやって理由づければ、
ゴリアテダビデを打ち負かすことはなかった……
いや、「ダビデゴリアテを打ち負かす」だ。(言い間違い)
旧約聖書、少年ダビデが巨人戦士ゴリアテを倒すという逸話から、小さな者が大きな者を倒す例え)

【大きいはずの自国、しかも攻め込んだ側であるロシアを小さなダビデに例え、小国だと認識されているはずのウクライナを巨人ゴリアテに例えている。間違ったのも本心が出たからか。演説としてどうなのか……】

ゴリアテは簡単にその体躯でダビデを踏みつぶしてしまうだろう。
ずば抜けた身体能力を持った巨大な戦士だ。
ダビデは彼に立ち向かった。
控えめな体躯と、控えめな身体能力で。
そして勝った。
なぜなら神は力ではなく、真実に宿るからだ。【だとしたら嘘ばかりのロシアには宿らない】

我々は勝つことが出来るだろうか?
まるで何も起こっておらず、NATOとの戦いも存在しないかのように生きていて。

動員が発令され、突然それは明らかになった。
最初に逃げる者とそうでない者。
頑健な者と、40歳以上の者。
若者たちはどこだ?

(今)周りにいる人々を見て、こんな風に考えるだろう。
まるで虹を排出する妖精たちのようだと。
周りにいる皆はとても可愛らしくて、優しくて、
あそこにはカメラがあるし、チュッパチャップスも貰える。

だが世界は残酷で恐ろしい。
この世界では人間が造られた瞬間から、
ほとんど毎年戦争がある。
戦争が無かった年数は、
両手の指で数えられるほどしかない。
人類史全体に渡って、だ。

我々は、他人の痛みに気づかずに生きてきた。
私たちは西洋のシステムに適合しているのだと信じて。
そこに英雄は必要なかった。
トランスジェンダーがいる世界だ。
そこでの主要な問題は、
子供が彼自身の性別を選ぶ権利があるかどうかだ。

【これは西洋の文化を否定するために引き合いに出している。ロシアは性的マイノリティー(に限らずあらゆる少数派)への差別が大きい。LGBTQの勢力を打ち負かすために戦うのだ、などと戦争の正当化に使ったりもしている】

突然、戦争がやってきた。【戦争を始めたのはロシア】
これが何を意味するのかと言えば、我々には別の経済圏が必要だということだ。
そして別の軍事工業地区も。
全てが別離する必要がある。

しかしそれを加速して実行する間、
男子は今あるもので戦わなければならない。
強大なNATOを相手に。【嘘】
どちらにしろ、(勢力を)すり減らさなければいけない相手だ。
我々は勝利を披露しなければならない。

我々の中にはそれに足るだけの強さと英雄が存在するだろうか?
西から攻めてくる完全悪を打ち破るための。
西からやってくる完全な嘘をも。【嘘を国民についているのはロシアの方】
我々は世界で最も中傷されている民族だ。【開戦後はその通り。自業自得】
我々は欧米に導かれるのに慣れてしまった。
大きなものの一部でいる感覚にも。
いつもあちらのどこかに居て、彼らの後をついて回る。
とても便利だからだ。
我々は30年間、それが普通だと思って来た。
このままのやり方で生きていくのは不可能だ。

選択肢は非常にシンプルだ。
今までの生き方が消え去るか、私たちが消え去るかだ。
私たちは勝てるだろうか?
(間(溜息))
ロシアの無い世界など、一体だれが必要とする?
それが私たちの大統領(プーチン)の言った言葉だ。
そのため、世界には2つの選択肢がある。
一つ目は、私たちが勝利する。
彼らは2つ目をいやがるだろう。【負けを前提にした世界に向けての核の使用を示唆】
全く好きにはなれないはずだ。

勝利は簡単でも、素早く手に入れられるものでもない。
我々は勝利にふさわしい存在にならなければならない。
恐怖に震えたり無駄口を叩いたりするのは少ない方がいい。
そして毎日一生懸命働くことが必要になる。

例えば、君たちは今ユニフォームを着ている。
今が準備を始める時なのだ。
君たちが気が付く前に、その時はやってくる。
楽しいゲームのように見える準備の後に。
気が付けば君たちは英雄たちと肩を並べていることになる。
そしてその年齢になったならば、
(外国からの)嫌悪を向けられる覚悟をしておけ。
仲間から向けられるものも含めてだ。
なぜロシアが存在しなければならないのかを理解できない仲間たちからの。

いつも同じだ。
年取ったノアは孤独だった。(旧約聖書の『ノアの箱舟』から)
息子たちと妻たちと、たった8人だけだ。
しかし彼らが人類を存続させ、救ったのだ。
周りの人々はノアよりものをよく知っていると思っていた。
だけどそれは彼らを救わなかった。
生き残ったのはノアと彼の息子たちだけ。

我々は勝たなければならない。
多くの市民が毎日犠牲になっている。何のために?
一体何のためだ?
彼らのおかげで、嫌悪は自然だ。(???)
そして我々はただ難しい仕事をしているだけ。
私たちは深刻な病に侵されているウクライナの人々を治しているのだ。【ロシアの一部になりたくないウクライナは異常で、『治療』されなければならないという論理】
我々は彼らを癒す。
そしてその後、次の人々も。
戦争に関する真実を捻じ曲げることが出来ると思う人間たちだ。【幾度となく捻じ曲げているのはロシアの方】
我々の動機は正当なのだから、勝利は我々のものとなる。


【字幕翻訳以上】

以下は要点おさらいです。

  • 簡単に勝てるはずだというそれまでの前提を覆しておく

  • 国外への逃亡を批判

  • NATOの関与を主張し(嘘)、敵の強大さを強調

  • ウクライナ人のロシア嫌悪と虐殺を強調し(嘘)、自分から始めた戦争を正当化

  • 旧約聖書の逸話を持ち出して、ロシアを大きな困難を打ち砕く小さな英雄に例える

  • 自国が正義であると何度も強調

  • 戦争とは程遠い感覚で生きる若者たちに準備するよう呼びかけ

  • 欧米の文化の否定と別離の宣言

  • 「勝てないのなら世界などいらない」と自国の重要性を強調

  • 旧約聖書の逸話を再度持ち出して、批判されてもやり遂げるべきだと釘を刺す

  • 「私たちは異常なウクライナ人を『治療』している」と戦争を正当化

こちらの記事をご覧いただくと、よりこれらの論理の背景が理解できると思います。

いかがでしたでしょうか。ロシアの論理がいかにめちゃくちゃなのかを実感していただけたでしょうか。

(きっと、第二次世界大戦ごろの日本も似たような感じだったのかなとは思っています。)

戦争が終わったとしても、ロシアが国際社会で受け入れられるまでは本当に長くかかりそう……。

それではまた。

翻訳者、瀬道