「ロシアの侵攻も蛮行も、全く不思議ではない」バルト三国の対諜報部幹部が語るロシア【英文記事要約】
【本記事は、自己note記事↓の転載です。】
今回の要約は、ツイッターでかなり反響をいただいたものです。
原文の記事はエストニアの独立メディアであるエスティ―・エクスプレスのものです。著者はエストニアのフリージャーナリストEero Epner氏。英語への翻訳はAdam Cullen氏。
リンクがこちら↓
ツイッターでフォローしていたウクライナ情勢関連アカウントがいくつも推奨RTしていたのがきっかけで見つけました。
読みながら要約ツイート連投していたスレッドがこちら↓
以下に見出しを付けてまとめておきます。
【以下要約】
機関名など一部修正、見出し追加、【】内は瀬道の補足です。
隣人たちのロシア批評
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トゥーツ(Toots)氏はエストニア国内保安局(Estonian Internal Security Service、エストニア語の略称はKAPO)の職員。
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職歴30年のうちの半分はロシアスパイ対策部で、ロシアのために働くスパイを見つけるのが仕事。
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元上司でのちの部下が実はロシアからのスパイとして暗躍していたことが判明し、逮捕している。同僚の一人はロシアにさらわれている。
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ロシア系が大半の東部出身なのでロシアのメンタリティは体験的に知っている。
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「エストニア人であることの強みは常に冷静であること。ロシア人は違う。感情的で、すぐに苛立ち、混乱する。」
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「ロシア人に論理は効かない」
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「状況が現実に悪くなるまで大丈夫なふりをする」
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彼らのなかに明確なボスがいないとそこは無法地帯となる
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「感情的だが同時に野心家で冷酷、残忍」
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彼らの性質を考えればブチャの惨劇も驚くことではないと
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バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の諜報員たちは彼らの性質をよく知っている。WWⅡの間もその前も、ロシア人は同じようにその地でふるまって来た。ずっと同じ。
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欧米の人間はそれを認識していない。 「欧米は幸運だ。我々がロシアと彼らの間にいるから。彼らは多くを忘れ、ロシア人を同類だと思っている」
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ロシア語話者の多い地区で育ったラトビア国家安全保障局(State Security Service)長官メジュヴィエツ(Mežviets)氏:「私はロシアのメンタリティを毎日目撃していた」
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「人々が『これはロシアの戦争ではなくプーチンの戦争だ』と言い始めた時、我々は心配になった」
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エストニア国内保安局長官シニサル(Sinisalu)氏も同意。「国は洗脳できるだろうが、極端な排他主義は人々の中にもともとある」
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リトアニア国家安全保障局長官ジョナスキス(Jauniškis)氏はソビエト時代に従軍経験あり。他の兵士は常に優位に立とうと喧嘩を売ってきた。
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「従えば奴隷にされるから戦った。」
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「抵抗すれば尊敬を得ることもある。」
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喧嘩の傷跡は数えきれない。若い人員に、『ロシアは強さしか認識しないし尊敬しない』ことを教える際に使っている。
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バルト三国の士官たちは皆、『ウクライナでの戦争はプーチンの戦争ではない』ことに同意。残虐性はプーチン個人のものではない。
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強姦、殺人、えぐり取られた目、首つり、燃やされた遺体は、ロシアの指導者によって採用された特別な手法ではなく、ロシア全体のもの。これを欧米の仲間は信じられない。
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とある諜報員A「(欧米の)彼らはもっと純真で楽観的」
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諜報員B「『ロシアは信用できない』と説明しても彼らは信じようとしない」
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欧米人でもロシアを十分に体験した人員は理解しているが、政治家や国外諜報員たちのトップは分かっていない。
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彼らはロシア全体の一般論にするのを避けてプーチンだけの所為にし、自国と同じ性質があるはずと信じようとする
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バルト三国の見解はまるっきり逆。彼らにしてみればウクライナ侵攻は驚きでも何でもない。ロシアの性質を考えれば当然の流れ。(驚きまくってた身としては耳が痛い……)そしれこれはいつかまた繰り返される。
長官たちのロシア実体験
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トゥーツ氏は日常的にデドフシシナ(暴力で後輩を従わせる行為)を目撃していた
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バルト三国の国防職員たちはお互いと話すときは英語。ことわざを言い合えるほど流暢でもロシア語は使わない。
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プーチンとその取り巻きに、上流階級で育った欧米のリーダーたちとの共通点はない
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知的で良心的で『まともな』ロシア人も大勢いるが、それは決してロシアの主流ではない
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ロシアを知りたければモスクワとサンクトに行っても意味なし。そのすぐ外の村では、すべてが壊れかけていても文句を言うだけでそれを直そうともしない社会がある。
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『ロシアの人々には、苦痛が普通になっている。』
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パリの人々を革命に駆り立てたような理不尽にも、ロシア人は動かない
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電気、舗装道路、屋内のトイレすらない村も多い
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食べ物すら不足するような場所で事業は育たない
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『強く偉大な国』に対する、ぼんやりとした帰属意識があるだけ
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ロシアはWWⅡからまっっったく変わっていない。
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ナチスを理解するのにメルケル元首相やショルツ首相を観察しても意味はないが、プーチンロシアを観察すればWWⅡ時代のロシアがわかるほど。
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ウクライナで今日起こっていることは、WWⅡでタリン、リガ、ヴィリニュスで起こったことの繰り返し
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そのくせロシアは『ナチスを亡ぼし、WWⅡに勝利した』ことを(唯一の)誇りとしている 【参照↓】
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シニサル氏「彼らは(WWⅡ時の蛮行の)責任を問われたことがない。それが彼らを無敵だと思い込ませている。」
帝国の幻影
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WWⅡ時のロシアの戦争犯罪を調べている歴史研究家「過去に起こったことと、今日起こっていることはほとんど変わらない。変わったとすればより残酷で粗野になった点」
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メジュヴィエツ氏「我々のロシアに対する分析結果は30年間変化しなかった。その主軸は『どんな手段を使っても、帝国という立場を取り戻す』というもの」
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歴史家「彼らに国家(外国)という概念はない。あるのは領域と領土だけ」
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周りに居るのは家臣か助力者だけ。他に選択肢はありえない
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メジュヴィエツ氏「ロシアがソビエトの崩壊を受け入れることは決してない」
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ジャニスキス氏「彼らのマインドセットは征服者のそれだ。周りは全員敵」
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「不当に扱われ復讐の機会を伺う子供のような精神」
【イヴァン雷帝は500年前に領地拡大成功したサイコメンヘラ皇帝(息子殺したりしてる)】
【『現代の』???いまだに???確かにやってることまんまだが……】
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ここ最近になって、過去の紛争や戦争で現代を形作ろうとする動きが激しくなっていた(今日の侵攻の正当性を語るために、遠い過去の戦いを持ち出したり)
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領地拡大思想と復讐の精神を煽るために、ロシア諜報FSB職員は特にこの『教育』をしっかりと受けさせられる
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欧米に後れを取っている事実には、ロシア人は負け惜しみに「ロシアは特別だ」と考えるか、腹を立てるか、みじめに思うか、または国は略奪されたと信じているかのどれか
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とあるロシア人「ロシア人は真実には興味はない。あるのは正義に対してだ」(その歴史的正義がファンタジーだとしても)
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現代のロシアの諜報やプロパガンダは数百年前と同一。シリアとアフガニスタンでの戦争は、その意図と行動は大北方戦争とリヴォニア戦争と同じ
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ロシアの厳格な階級社会、多様性への不耐性、限られた情報の中にある独裁主義、そしてその独裁主義を望む大衆(欧米が理解に苦しむ点)は、何世紀も前からそのまま
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シニサル氏「ロシアの歴史的パターンは暴力だ。そこで人の命に価値はない」
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ロシアの格言「他人を怖がらせるために自分の人間を殴れ」
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ブチャはカティンの再現、オレニフカ刑務所の爆破は1941年に1200人の女性収監者を殺したサンビルの爆破の再現
『私たち』との明確な違い
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エストニアの企業家「ロシアにとってwin-winは負けを意味する。交渉の時でさえ勝ち負けが無ければならず、必ず彼らが勝たなければならない」
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メジュヴィエツ氏「彼らにとって外交的な手腕や駆け引きは弱さを意味する。彼らが認識するのは強さだけだが、欧米側はロシアには自分たちと同じ価値観があると思っている
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ジャニスキス氏は現代ロシアを中世モンゴルと同列に考えられると。リトアニアはモンゴルに対抗するためにロシアと手を組んだ歴史があるが、ロシアはリトアニアの動向を見て手のひらを返したと考える。「やつらは動物だ」
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歴史家「ロシア社会にそんな悪が存在するなど安直に考えたくはない。できればもっと崇高な考えを導きたい。だが単純にそれが真実だ」
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もちろんこの考え方は政治的には正しくないし、ロシア人すべてが悪人なわけではない。
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ロシア社会の人間性を否定したくない人権活動家「ロシアは何世紀にもわたっておとぎ話の中で生きてきた。表現の自由すら享受していない。彼らに一体何を期待できる?」
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ロシアのメンタリティは『特別』。ロシアには独自のルールと価値観がある。
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ロシアのジョークですら欧米では通じない。バルト三国だけが両方で笑える。
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これをプロパガンダの所為にはできない。帝国主義、排他主義、残忍性は、ロシアの教育や子育て、文化、価値観の一部となっている
ロシアの性質の普遍性
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当時エストニア政府で働いていたバレ(Vare)氏「最短でも一年後には元のロシアに戻ると分っていた」それすら楽観的で、たったの数か月後には石油を利用してエストニアを操ろうとしてきた
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バルト三国の対諜報部の職員たちはロシアは何も変わらないだろうと予測する
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歴史家「ロシアの学校では、子供たちに『ロシアはバルト三国を一時的に失っただけ』と教えている。誰もロシアのように国を治められないと」
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ナワリヌイが奇跡的に指導者になってもメンタリティは変わらない
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欧米の望む、『ロシアの平和的な民主主義への移行』は、その歴史とマインドセットと現実を無視した幻想にすぎない
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ウクライナのエストニア大使クースク(Kuusk)氏はイジュームの集団墓地と拷問部屋を訪れた。「拷問をしていたのは田舎者ではなく、流暢なモスクワorサンクトの方言で話していたと聞いた」
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ウクライナでの完全な敗北だけが、唯一の変化のチャンス
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歴史家「ロシアに影響を及ぼしてきたのはいつだって『力』だ。いくら他に方法があるのではと願っても、ないものはない」
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ジャニスキス氏「彼らは他の国からの尊敬を残虐な方法で強制しようとする」
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たとえウクライナで負けたとしても、ロシアのメンタリティ自体は変わらない
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メジュヴィエツ氏「プーチンが死んでも同じだ。私たちの地域にとっては、指導者が誰であろうと脅威であり続ける」
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ウクライナ侵攻はロシアには変化をもたらさなかったが、欧米のロシアに対する認識はわずかに変わった
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だがそれも十分ではない。欧米人は人間らしく理解しようとする姿勢を保たなければ欧米人ではないと、「ロシアの一般人に罪はない」と主張する
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シニサル氏「『プーチンの戦争』と呼びロシア自体を非難することを避けるというのは馬鹿なこと」
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ロシアで革命が起こったのは、戦争に負けた時だけ
【モスクワ公国はクリミア進行に失敗し崩壊。
ロシア帝国は日本に負けて崩壊。
ソ連はアフガニスタン進行に失敗して崩壊。
参照記事著者のカミル氏:「ロシアは貧困にも不景気にも圧政にも耐えられるが、小さな戦争における敗北だけには耐えられない」】
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バルト三国でもロシアを『体験』した世代は老いて、ロシア語を話せる人口も減ってきている。言葉がわからなければ微妙なニュアンスを拾えなくなる。しかし前の世代の体験は失われない。
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戦争が始まってからバルト三国でのロシア諜報活動は僅かに弱まったが、それも一時的なものだろう
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ロシアのバルト三国における諜報活動は、道具が変わっただけで方針自体は変わっていない
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Toots氏が過去15年間で捕まえたロシア人スパイの数は21人。すべて起訴され有罪。「年内にまたニュースがあるだろう」
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ジャニスキス氏「いつかロシア人は自分たちが何をしたのかに気が付くのだろう。その罪の意識は耐え難いものになるはずだ」
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記事末尾の著者のストーリー:エストニアに帰って数日後は曾叔母の誕生日。百歳だがとても活発。だが戦争が始まってから眠れなくなったと。彼女の子供が言うには、「また強姦魔たちが帰ってくるのではないかと恐れている」のだと……
【要約以上】
参照として掲載したカミルさんの記事もそうですが、この記事は私たちからすれば信じがたいロシアの『異常』なメンタリティをよく示してくれていると思います。
これはバルト三国の人々だけでなく、タタール人であるカミルさん、そしてカザフスタン出身のアザマットさん(↓)の記述にも繰り返し現れています。
私たちの隣人でもあるロシアに関して、その脅威と戦い続けた人々の言葉を、私たちはよく聞いておいた方がいいのでしょう。
それではまた。
翻訳者、瀬道